[33日目]UTMB(CCC)参戦


※少々長文です。ご容赦ください。

32日目。
今日はUTMB参戦の日。

僕がトレイルランを始めた
きっかけとなったこのレース。
モンブランの山々を見ながら
世界最高のトレイルを走るという
ワクワクの衝動から
ここを目指して、これまで
様々なレースに参戦してきた。

ただ、憧れのレースに
参戦できるという
気分とは裏腹に、
インドで2日1食という
極端な食事制限をしてから
1週間ほど復食に努めてきたが、
まだ胃腸が本調子ではない。

炭水化物を思うように
取れないことに加えて
食べ物を胃に入れると
しばらく腹痛が起こる。
ジュネーブに入ってから
ずっと下痢も続いていて
万全の体調とはいいがたい。

それでもせっかくのレース
行けるところまで行こうと
朝4時半に起きて身支度を整える。

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トレランのリュックの中に
念のため正露丸も忍ばせる。

エアビで手配した宿から
スタート地点まで
運んでくれるバスの
ピックアップ地点までは
徒歩10分。
薄暗いシャモニーの町を
一人で歩いていく。

途中でゴールゲートをパシャ。
26時間以内にこれをくぐれば
いいんだと自分にいい聞かせる。

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午前7時しては、
あたりが暗いなぁと
感じていたのだが、
実は6時のバスに
乗ってしまったらしい。

腕時計がなぜか1時間
進んでいたようだ。
でもこの時間を基準にして
走ればちょうどいいと思い、
時計を1時間進んだままに
しておく。

モンブランの下を貫通している
トンネルを抜けて約40分ほどで
シャモニーの反対側にある
イタリアのクールマイヨールへ
到着。
途中でフランスとイタリアの
国境を通過。

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スタートまで少々時間があるので、
近くの施設で仮眠をとる。

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施設からスタート地点までは
およそ1㎞の坂道を登る。
クールマイヨールの町も
シャモニー同様、お祭り騒ぎだ。
だんだん気分が高まっていく。

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午前9時。
大歓声の中、最初のグループが
スタートを切る。
混雑を防止するため、
ウェーブスタートが
導入されている。

僕は3つ目のグループなので
9時半にスタートゲートを
くぐった。
例によって最後尾スタート。

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まずはクールマイヨールの町中を
ぐるっと一周。
応援がたくさんでとても心地よい。

街を抜けるとすぐに上りが始まる。
最初の登りは大したことなく、
四万十ウルトラマラソンの15㎞-20㎞
の登りのように走って登っていく。
ここで200人位は抜いた気がする。

3㎞位でロードステージが終わり、
山の中へ入っていく。
この登りもよくあるトレイルの道で
それほど苦しくない。

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足の筋肉を温存するために、
最初からストックを使って
体重を分散する。

最初に登る山は「Trounche」
標高差で1800m近くいきなり
登ることになる。

UTMFやSTYでもたくさんの山を
超えていくが、日本のレースでは
一つの山の最高の標高差は
1000m前後。

この1800m標高差といえば、
ちょうど富士山五合目から
山頂までの標高差が1300m位なので
五合目から富士山頂まで登って
さらにプラス500mの登山をする
そんな感じの高さだ。

これにいきなり
挑むことになるのだが、
ここで早速、高斜度の洗礼を
浴びることになる。

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森林限界までの5㎞位は難なく
登っていけるのだが、森林が
無くなったあたりから、
いきなり斜度があがる。

最初調子が良かったのに
斜度が上がったとたんに
ペースがスローダウン。
ここで100人位抜かれたと思う。

今年に入って、トレイルレースに
参戦していないこともあり、
こうした急斜度に身体が
なかなか適応してこない。

インドでも猛暑の中、
毎日30㎞ほど走ったが、
安全を考慮して
車道のみを走っていたので、
こうした急斜度に対する
足の準備ができていないのだ。

いつもであればサクサクいける
はずなのに2,30m上がると
すぐに息が切れて足が進まない。
何かがおかしいが、考えても
仕方ないので、ひたすら登っては
休みを繰り返しながら徐々に
高度を上げていく。

なんとか苦しみながらも
時間をかけて山頂に到達。
登りで相当タイムロスをしたので
下りで時間を挽回しないと
関門時間が厳しいこのレースでは
間に合わない。
各区間に与えられている制限時間が
170㎞のUTMBよりも短いのだ。
さらに言えば、登りの割合も
UTMBよりも多い。

下りに入ってからスピードを
上げて一気に抜いていく。
外国人は下りがあまり得意で
ないらしく、登りで抜かれた人を
下りでどんどん抜き返していく。

15㎞地点の最初の給水で
水分を補給。
カロリーが明らかに
足りていないので、
シリアルバーをコーラで
胃の中へ無理やり流し込む。
おなかがゴロゴロしてくるが
とりあえず無視。

そこからずっと歩くことなく、
走り続ける。
最初の関門である27㎞地点の
「ARNOUVAZ」に到着したのが
16時05分。
関門時間が16時45分なので
40分しか時間がない。

炭水化物を取りたいのだが、
胃が全く受け付けないので
オレンジとレモンを補給。
コーラも3杯飲み干す。

いつもだと、コンスタントに
アミノバイタルやクエン酸も
このタイミングで補給するのだが、
今回はこうした補給物を
一切持ってきていないので、
サプリメントによる
補給ができない。

よって身体の疲労回復には
食事に頼るしかないのだが、
胃腸の調子がいまいちなので、
思うような補給ができないという
とても歯がゆい状態。

これまでたくさんの
ウルトラレースに参戦しているが、
食べれないという状態は初めて。
どんな状態でも必ずガッツリ
食べれるのが僕の一番の強みなのだが、
今回はその力に頼ることができない。

不安は募りつつも、
時間が無いので、
約5分ほどでエイドを後にする。
貯金は35分ほど。

次に超える山は
「Grand Col Ferret」
標高差こそ800m程度だが、
先ほどのTroncheの後半級の
斜度がひたすら続くという
これまたなかなかきつい
ステージ。

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最初の200m位を上がると
いきなり山頂が見える。
その山頂までの道を見たら
唖然とした。。。

「あれ、登るのか。。。」

ストックを使っていたが、
重心のコントロールが
いまいちうまくいかないのと
肺を開くことができないので
ここでストックをしまい
足の力のみで高斜度の斜面を
登っていく。

350m位登ったところで、
吐き気とめまいを覚えたので
一旦休憩をとる。
座ったとたんに、クラッときて、
そのまま吐いてしまう。

レース中に戻すという経験も
これが初めて。
しばらく草原に横になりながら
夕陽に照らされるモンブランを
眺める。

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文句なしに美しい。

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一瞬レースの過酷さと
身体のしんどさを忘れて
美の世界に引き込まれていく。

その景色のすばらしさとは
裏腹に、身体が言うことを
きかないもどかしさと
時間制限に対する焦りが
襲ってくる。

30分ほど休んで、やっと意識が
ちゃんとしてきたので、再度
ゆっくりと一歩一歩進めて
山頂を目指す。

上を見るとげんなりするので
足元だけを見て着実に進む。
「今ここ」だけに意識を向けて、
先のことを考えず、身体と
対話しながら進んでいく。

苦しみながらも19時20分に
山頂に到着。スイスに入国。
登りに3時間10分も費やした
計算だ。

予定であれば2~2.5時間位で
クリアできるはずだったが、
休んだことに加えて、
ひたすら登り続けるという
このスタイルに、未だ
身体が慣れてこない。

UTMB対策としては、
富士山の馬返しから
山頂までを24時間で
2往復(お鉢めぐりも入れて)
するような練習が
有効だと感じた。
本当に一つ一つの山が
桁外れに大きい。

ちなみに日本の有名なトレイル
レースである日本山岳耐久レースと
UTMBのレースの山を同尺度で
比較するとこんな感じになる。

ハセツネvsUTMB

いかに一つ一つの山が
大きいかがわかるだろう。

Ferretの山頂から次の関門の
42㎞地点「Fouly」までは
およそ8㎞。

ずっと下り基調の走りやすい
トレイルとはいえ、ロードとは
違うから、相当がんばらないと
第二関門でOUTだ。

ボロボロの体調に鞭打って
山頂から一気に走り抜ける。

予めこのステージで
思いっきり足を使うと
後半に相当のダメージが
出るいうアドバイスを
受けていたが、
制限時間に間に合わなければ
そもそも足を保存する
意味がない。

全身の痛みと吐き気に耐えつつ
全速力で下っていく。
登りで抜かれたたくさんの人を
この下りでどんどん抜き返す。

結局Foulyのエイドに到着したのが
午後8時5分。関門25分前に到着。
この8㎞をおよそ45分で駆け抜けた。
登りで失った時間を下りの頑張りで
取り戻した感じだ。

ただ、無理したこの代償は大きく、
体調は最悪、吐き気と腹痛に加えて
寒気と強烈な頭痛が襲ってくる。
ハンガーノックかと思いきや
喉も痛いから風邪をひいたらしい。

インドからジュネーブへの
フライトの時、
隣に座ったおじさんが
フライト中ずっと
ひどい咳をしていて、
移されないように
スカーフと毛布でバリアを
張っていたのだが、
それでも移されてしまったのか。

それとも、ずっと直射日光の中
走り続けていたので、
熱射病にかかってしまったのか。

理由はともかく
あたまがガンガンするので、
このエイドで5分ほど横になって
休んでみる。

リタイアの4文字が頭に浮かぶ。

でもまだ意識もあるし、
なんとか身体も動く。
自ら終止符を打つのは嫌だ。

とにかく食べないと進めないので、
オレンジとバナナを
コンソメスープとコーラで
無理やり流し込む。
関門15分前にエイドを後にした。

次の関門地点Chanpexまでは
およそ14km。
関門時間23時30分。
残り3時間15分だ。

元気であれば、最初の10㎞は
下り基調であるので、1.5時間
程度で行けるボーナスステージ。
坂道はあまり得意ではないので
こうした林道で極力時間を
稼いでおくのがいつもの作戦。

ただ、先ほどのステージで
体力を足を相当消耗して
しまったことに加えて
寒気と頭痛が激しさを
増してくるひどい状態。

比較的林道が多い区間なので、
元気であれば走れるはずなのだが
ふらついて走ることができない。

約5㎞ほど進んだ所で
意識が朦朧として
足がもつれて来たことと
辺りが暗くなってきたので
ライトを用意するために
ザックを下して
座って休むことに。

悪寒と頭痛がひどいので
持っている服とレインコート
帽子や手袋をすべて着込んで
エマージェンシーブランケット
に身を包んで様子を見る。

そうしている間に
少し意識が遠のいて
気が付いたら眠って
しまっていた。
時計を見ると30分近く
寝ていたことになる。

ただ、寝たおかげで
少し体調が回復。
時間的には厳しいが、
とにかく最後まで
全力を出し切ろうと
暗闇の林道をゆっくりと
走り始める。

暗い山道を一歩一歩進む。

このとき、ふと頭に修行僧の姿が
浮かんできた。
千日回峰行の塩沼住職は
こんな山道を千日間も
歩いたのかなどと
考えたりもした。

いないはずの白い修行僧が
僕の前を歩いていたりもした。
さすがに白装束の仮装をして
海外レースに参加する人は
いないので
きっと幻だったのだろう。

約2時間かけて約10㎞ほど
下ると、小さな街に入った。
夜中にも関わらず、
応援してくれる
人がいるのは心強い。
ジュースや水を
いただきながら
足を進める。

この時点ですでにエイドを
出てから2時間半が経過していた。
途中の30分近い休憩&睡眠で
時間を消費してしまっていた。

ここからエイドまでの約4㎞ほどは
500mほど登る感じ。
これまでの山に比べれば斜度は
全然きつくないが、それでも
身体がボロボロなので、足が重い。
これでもかっていうくらい
山の中をグルグルと迂回しながら、
ひたすら上っていく。

山の中腹にあるあかりに
何度もだまされ、
エイドにたどりついたという
期待を何度も裏切られるという
失意の中、暗闇を進んでいく。

結局この登りに約1時間かかり、
Chanpexのエイドに到着したのが
23時45分。
関門時間を15分超えての到着で
ここでタイムアウト。

今年のレースはここで終わった。

タグを外された後も頭痛と悪寒が
ひどいのでレスキューで体温計を
借りて測ってみると39度1分。
改めて自分の身体を観察してみると
足の痛みに気を取られているが、
実はインフルエンザのような
発熱による全身の痛みが
発生していた。

しばらくエイドで
横にならせてもらい
最終のバスで
シャモニーまで戻る。
といってもバスでも
街まで戻るのに
2時間もかかった。

実はこの時間が
一番辛い時間だった。

バスの中でも
エマージェンシーブランケットに
身を包みながら
周りの人に励まされ
何とか持ちこたえて、
Chamonixまで戻った。

バス停から部屋までおよそ1㎞。
ゴールできなかった
ゲートを横目に、
深夜のChamonixの町を
ふらふらと歩く。

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入口のドアを開けて
部屋に入ったとたん
気が抜けたのが
そのまま床に倒れ込んで、
翌日の昼過ぎまで
そのまま寝てしまった。

完走できなかったことは
本当に悔しいが、
やれることは
すべてやったという
爽快感はある。

モンブランの美しい景色に
囲まれながら、
キモチよいトレイルを
思いっきり走ることができた。

特に日があるうちに、
大きな二つの山を越えることで
様々なモンブランの姿を
観ることができた。

苦しかったけど
最高の経験だった。

唯一の心残りは、
シャモニーの大歓声の中で
ゴールをできなかったこと。
この経験だけ、またいつか
チャレンジしてみたいと思う。

ここに飛び込むという
新しい目標が生まれた。

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今回のレースを通じて
いくつか分かったことがある。

ウルトラ級レース前の
極端な食事制限は
致命傷になるということ。

胃腸の強さが自分の強みだったのに
それが使えないことで
こんなに苦しい状態になるとは
本当に思わなかった。

自分の身体との対話を
いやというほどさせられた
貴重な体験だった。

二日間、シャモニーで身体を癒して
また世界ツアーへ戻ろうと思う。

レース中、たくさんの方々に
温かい応援をいただきました。
本当にありがとうございました!

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  1. akiyoshi.h より:

    お疲れ様!

  2. 梅原 より:

    読んでるだけで感動しました。

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